ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ。あるいは、分からないこととロマンについて

富士見町のお隣、原村を拠点とするムジカ・ロゼッタの古楽コンサート「バッハが弾いた? 幻のチェロを追って」を観てきた。



タイトルにある "幻のチェロ" とは、「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ」という楽器。「スパッラ」とはイタリア語で肩のことで、肩から掛けてヴァイオリンやヴィオラ、あるいはギターのようにも弾けるのが大きな特徴。加えて、現在のチェロよりも 1本多い 5本の弦を持っている。

肩から掛けられるのだから、両足で挟んで弾く現在のチェロよりも、当然のように小型である。

5弦の小さいチェロ、というと、チェロ・ピッコロを想像する方も多いと思うのだが、チェロ・ピッコロも両足で挟んで弾くので、そうするとやはり肩から掛けて弾くというのが最大の特徴ということになろうか。

詳しくは、日本におけるヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの製作者、髙倉匠弦楽器製作工房のウエブサイトを見てほしい。

この楽器についての研究が盛んに行われるようになったのは、ここ十数年のことらしい。

よく言及されるのは、バッハの『無伴奏チェロ組曲第6番』が、5弦チェロ用に書かれていること。この日は、当曲をはじめ、バッハのカンタータやヴィバルディの『チェロ・ソナタ第1番』、ドメニコ・ガブリエリ『2本のチェロのためのカノン』が演奏された。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラは、音量や迫力では現代のチェロにはかなわないものの、逆にボディが小さいからゆえの軽快さがあって、演奏者も聴衆もバッハの時代の音楽に対して新たなアイデアを抱きやすいのではないか、という気がした。

また、奏者がギターのように楽器を抱える姿は、やはり新鮮である。

この日、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを演奏したのは、天野寿彦さんと丹沢広樹さん。どこかギタリストがフルアコースティックギターを抱えるような風情も感じさせた天野さんと(スパッラとフルアコのサイズ感も似ているような……)、楽器に顎を載せるような感じで、ヴァイオリンの香りを残すかのような丹沢さんの対比も面白く、どこか自由な空気を感じたのだった。弾きながら動けるので、身体感覚が観る者にも伝わってくるというか。


そして、バッハの音楽はよくジャズとの相性の良さ、みたいなところが語られるけれど、今日ほどそれを実感したことはなかった。それはひとえにオルガンの杉本周介さんとスパッラ奏者のどちらか一人が担っていた通奏低音がまるでジャズのベースラインのように聴こえたからだと思う。ソプラノの原謡子さんが入ったカンタータでもすらそんな感じだから、痛快ですらあったのだ。


加えて、コンサートのペースを作り、聴衆が音楽のポイントを掴みやすくしていたのが、杉本さんのトークだ。バッハがライプツィヒで活動していた当時、トーマス教会の音楽監督をしていた時期に教会で使う楽器の供給とメンテナンスを担当していたのがヨハン・クリスティアン・ホフマンという楽器製作家。彼が作ったヴィオロンチェロ・スパッラが残されているのだから、それは想像は膨らむだろう、ということを、非常に解りやすい言葉で伝えるのである。

「バッハはもともとヴァイオリン奏者として音楽の仕事を始めたほどだから、スパッラに興味を持たないわけないんですよね」みたいな。

言葉の選び方も、私のように「クラシックの専門家ではないけれど、ほんの少しぐらいは音楽をかじっている」みたいな輩にとって、とてもいい塩梅なのだ。このコンサートシリーズに集まってくるのは地元のクラシック音楽ファンが多い(と見受けられる)ことを考えると、難し過ぎず、かつ易し過ぎもしない。それで(今回のテーマに関しては)歴史のロマンがある。いろんな要素が絶妙のバランスで成り立っていたようなコンサートだった。



会場の様子。左から杉本さん、丹沢さん、天野さん、原さん(後ろ向きで申し訳ありません……)。

丹沢さんと天野さんのスパッラの構え方にも注目。

また、前述の髙倉匠弦楽器製作工房の髙倉さんも来場していた。


会場の八ヶ岳中央高原キリスト教会にも一度行ってみたかったのだ。



ところで。

今回のスパッラのように、まだ研究が進んでいないというか、分からないところが多分にあると、表現はより自由になる(のだと思う)。

「自由」というのは、「ロマン」や「愛」とも言い換えが可能だろうか。

そして、どこか、私が練習しているエレキギターにも通じているところがあるなんて言ったら、それはあまりにも乱暴に過ぎるだろうか(烈爆)。

まぁ、エレキの場合は、20世紀も半ばになってから登場した(そしてロックというある種自由の象徴ともいえる音楽とともに発展してきた)ものだから、型というものがあるにはあるが、みんな自分なりの新しい奏法を開発しているように思える。

スパッラは当然、弓で弾くのだけど、ギター者というか、ロックの洗礼を受けた者としては、ギターと弓といったら、まずはコレであろう……。

弓を使い始めるのは 4分過ぎぐらいから。関係ないが、いま改めて聴くと、ベースがカッコ良すぎる。。

そういえば、レッド・ツェッペリンといえば、代表曲〝Stairway to Heaven(天国への階段)〟が、17世紀イタリアの曲と似てる、なんて話もあったのを思い出した。

と、変な方向に話が動き出したので、今日はこの辺で……。

私の椅子はどこに

2022年11月に50歳を迎え、第二の人生が始まり、これからいろんなことがドラスティックに変わっていく――。 なんて、勝手に思い込んでいるフリーランス山﨑の、日々雑感です。 編集やライティングの仕事に加え、2021年に宅地建物取引士の資格を取得したので、仕事にも幅を持たせようという話、 あるいは趣味のギターやエンタメなどの話をしていきます。

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