200キロ以上はあろうかというその塊は、2人の手慣れた作業員により、まるで引っ越しの段ボール箱か何かのように軽やかに、そして滑らかに、建物に吸い込まれていった。
保管場所に運ばれると、4本の脚をインシュレーター(皿)に乗せて固定するのだが、その間に筐体を支える木材は、昔はビール瓶を使っていたらしい。
「皆さんがやられるなら、丸太を使えば間違いないと思いますけどね」と作業員のひとりがにこやかに教えてくれた。
富士見パノラマリゾートに、シュバイツァスタインのアップライトピアノがやって来ると知ったのは、富士見町を中心に活動するピアニストの根本崇史さんに教えてもらったから。
その納入日が今日、ということで、富士見パノラマリゾートまで出向き、待ち構えていたわけである。
ピアノは、冬にレンタルスキーの施設として使われる場所でとりあえず保管することに。
丁寧に、だけど手際よく、ピアノを運ぶ。簡単そうに見えるけど、熟練の技術を要する作業なのだろう。
脚をインシュレーターに乗せる。いちばん左が根本さん。
使われなくなったピアノに新たな活躍の場を――。
彼が手がけるプロジェクト「ピアノリレー」の中で、最も野心的でスケールの大きなプランといえるのが、この「標高1800mの山頂フリーピアノ」。せっかくやるなら誰にも真似できないことを、ということで、昨年から交渉を進めてきたという。
いわば「ジャパン・ヴィンテージ」といえるシュヴァイツァスタインのピアノ。日本の木工技術の粋とピアノ作りの情熱が存分に詰め込まれたそのピアノは、長野市に住む男性から〝リレー〟されたもの。40年ほども前に、娘さんのために購入したものだという。
「40年近くの間、ほとんど手入れしていないらしいですから」と根本さん。彼がまず行ったのは、筐体の掃除。長年の汚れを、丁寧に拭き取っていく。聞けば、調律師さんに教わった、手頃で、しかもピアノを傷つけない方法があるらしい。
ピアノは、富士見パノラマリゾートのゴンドラ山頂駅に設置する予定である。無事に設置されれば、日本で最も標高の高い場所にあるストリートピアノになるはずだ。
「まだこれから、山頂への運搬方法を決めたり、ピアノ自体の調整や調律など、やるべきことはたくさんありますが、なんとか 8月にはお披露目できるようにしたいですね」
蓋を開けると、威厳があって誇り高い鍵盤とロゴが登場。
ピアノと共に、1998 年に開催された、長野冬季オリンピックのポスターもリレーされてきた。
(つづく)
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